私が眠っている間は、
太陽が黄色くさわいでも、
風が鞭をふりまわしても、
ぜんぜん知らないこと
ただ目覚めた時、すべてを失っていることに気づくだけ
朝起きて、私が人魚のときは、
地下の海へ、深く深くおりてゆく
ほこりや傷をかきわけて、
底にきらめく真珠の粒をとってくる
それは薬のように私に働きかけて、
次第に、冷たくだらりとした尾ひれは乾き、
熱い血液がめぐりだし、やがて2本の足になる
そうしてまた、歩き出す
胸底からかすかにたちのぼる、潮騒にむせびながら
風だけが、私を見た
すべての角度から吹きつけて、検分し、
そして、私をおいて消えてしまった
─なにものでもないもののうた
(2022〜2023年制作)