制作日記

12星座を描く

2023/6/23

毎月テーマを変えて、作品を作ることにした。
そのテーマは、「考え」てはいけない。
心の空(うつほ)に樹液が固まるように、有機的であること。
内なる批評家の手が届かないように。

「最初は何がいいだろう?」
「12星座を描きましょう」
潜在意識が言う。
わたしは慌てた。
「えっ何てことを。あんなに何度も挫折したじゃない」

そう、ポートフォリオのためにも、何度も試みたのだ。
星座は好きなのだから、愛をもって描けるはず……ところがスケッチをはじめると、自分は偽物のアーティストだというような気分になって、やがて魂の抜けるような自己嫌悪にたどり着くのだ。

「だからこそじゃないの。あなたが内なる批評家を立入禁止にするなら、つまり、ただ描く喜びのために描くのなら、完成するかもしれない」
「なるほど」

さっそく、羊皮紙やフランスのヴィンテージポスター、大好きなチェコのイラストなどでムードボードを作り、スケッチにとりかかった。

  • それぞれの星座がもつユニークな物語を、完全に無視してしまわないこと。
  • アレンジをする場合は、原典を尊重しながら再解釈して、自分なりの表現にすること。
  • ユニセックスなキャラクター造形を目指すこと。

束の間、紙の上を右往左往したあと、ほおづえをつく小さな山羊座の姿が現れてからは迷いも消えた。少なくとも当てずっぽうではなく、航路の定まった旅になった。あとはコンパスの指す方へ、できるかぎりのことをするだけだ。そうだ、星の光がうつろうような、色のうつろいを描こう。途中からはただそれだけ考えていた気がする。

そうして生まれてはじめて一度も止まることなく12星座を描いた。生まれてはじめてというのは決して誇張ではない。天体図鑑をのぞきこみ、星座というものに目を輝かせた小学生の頃以来なのだから。
偽物症候群も小学生以来なのかと思うとため息がでそうになるが、大切なのは今、自分という茎をとおって作品が現れたことだ。

わたしは筆を置いた。
そしてようやく言える。

「天の星々を手にとって、大量のアートを作り出した太古の芸術家たちに捧げます」と。